「お待たせしました」

私の声に、窓際に立っていた背の高い人がこちらを振り向いた。

背後の朝日が眩しくて、顔が見えない。

「お忙しいところ、ありがとうございます」

その声に息を飲む。
眩しさにやっと慣れた目が捉えた、緑がかった茶色い瞳。

呆然とする私にその人が、「ご挨拶がわりに、これ」と鉢植えの花を差し出した。

「病院に鉢植えってどうかと思ったんですけど、患者さんじゃないし、いいかなって」

紫色の小さな花。ライラックだ。

「きれいでしょう。
種から育てたんです。
ハッピーライラックを見つけたら、誰にも言わずに飲み込んでください。好きな人と永遠に幸せになれるらしいですよ」

「あ……りがとう、ございます」

絞り出すように言い、その人を見上げた。懐かしい角度で。 

「やっと会えた」

私を見下ろす、緑がかった茶色の瞳の目尻が下がる。

フジミんでもない、直規でもない、まったく別の「佐藤直規」にも見える目。

初めて直規と出会った時と同じ、川の上流から下流に激しく水が流れるような、何かが私に押し寄せてくる感覚。

勝手にこぼれ落ちる涙に、私は自分がこの瞬間を待っていたことを知った。