「さおりさんのおかげですよ」

「え? 私?」

「僕が中学生の頃、夏休みに兄貴と三人で遊んだじゃないですか」

返答に困った私を、道哉が思い出させようとする。

「さおりさんがまだ金髪だった時ですよ。
あの時の俺、腐ってたんです。
色々思い通りにいかなくて。
あの時さおりさん言ったでしょ。
『みっちゃん、世界は広いんじゃない、たくさんあるんだよ』って。自分に合う世界がきっとあるよって意味だなって思って、なんとか持ち直したんですよ」

知らなかった。そんなことがあったなんて。

金髪も、意外とやるじゃん。

「そういえば、最近兄貴に会いました?」

私は首を振った。
高校を卒業して以来、フジミんとは一度も会っていない。

知っているのは、県外の大学に合格したということだけだ。

道哉くんが何か言いかけた時、スタッフが私を呼んだ。

「先生、ちょっといいですか?
昨日搬送された患者さんの件、新任のメディカルソーシャルワーカーが担当するそうで、ちょっと先生とお話ししたいそうです」

道哉くんに「またね」と告げると、私はミーティングルームに向かった。