「先生、お願いします」

処置が終わるのを待っていた救急隊員に呼び止められ、受け取った書類にサインしている時だった。

「あれ? もしかして」

親しげな声に顔を上げて、息が止まるかと思った。

懐かしい目が、私を見下ろしている。

「やっぱりさおりさんだ」

名前を呼ばれて、我に返った。
似ているけれど、違う。

「覚えてます? 佐藤道哉です。
さおりさんは医学部に行ったって聞いたけど、まさかここで会うなんてね」

「道哉くん、救急救命士になったんだね」

思わず一歩下がって、水色の制服姿を眺める。

思い出の奥深くに大切にしまった直規の面影を探す。

違う世界にいる直規もきっと、こんなふうにこの制服がよく似合っているはずだ。

「よく似合う」

思わず呟くと、道哉くんは照れ臭そうな顔をした。