メッセージの着信音で目を覚ました私は、枕元のスマホに手を伸ばした。

夜中に救急車で運ばれて来た若い患者の処置を終え、ソファに倒れ込んでから、まだ2時間しか経っていない。

「明日の約束、覚えてる? 待ってるからね!」

差出人は、見なくてもわかる。
ということは、今日は七夕か。

私は半開きの目をこじ開けて返信した。

「もちろん、覚えてるよ。プレゼント、楽しみにしててね」

打ち込んだメッセージを後ろから読み上げられ、私は飛び起きた。

「ちょっと、盗み見しないでくださいよ!」

「だって、見えちゃったんだもーん」

おどける先輩医師をにらみながら、送信ボタンを押す。

「ほとんど家に帰る暇もないのに、恋愛してるなんて立派立派」

「それセクハラですよ。まあ、彼氏じゃありませんけどね」

私はスマホを先輩医師の顔の前に突き出した。

待ち受け画面では、健太郎が口を大きく開けて笑っている。

「弟さん、いくつだっけ」

「明日で八歳です。この意味わかります?」

「わかってるよ。明日は絶対家に帰ります宣言だろ。幸運を祈る」

実家に帰るのは、お正月以来なのだ。
るいさんと健太郎が大好きなちらし寿司を作ってあげる約束は、何がなんでも守りたい。