「スタート地点?」

「うん。やっと、借りを返すことができたっていうか」

「フジミん、あの事故のこと、知ってたの? いつから?」

「中学生の時、調べたんだ。
あの事故のこと。
だから、美園に『すごく珍しい名前の友達がいる』って聞いた時、すぐにわかったよ。それで頼んだんだ。友達に会わせてって」

全部、知ってたんだ。最初から。出会う前から。

「最初は、謝ろうって思ったんだ。
でも、一生懸命なさおりんを見てたら、謝るのってなんか違うなって。
そのうち、事故のこととは別に、さおりんのことを知りたいって思った。知れば知るほど、落ち込んだけどね」

「どうして?」

落ち込んでるようには全然見えなかったけど。

「さおりんは、俺のずっと前を歩いてたから」

「そんなことないよ」

「あるよ。
自分でわかってるんだ。
俺はいろんなことから逃げてきたって。
でも今、やっとスタート地点に立てた気がするんだ。だから、頑張る」

「頑張るって、何を?」

「さおりん、前に言ってたでしょ。
人はいろんな才能の種を手に生まれてくるって。
俺の手の中にも、もう一人の俺と分け合っても余るぐらいの種があるんじゃないかなって思うし、そう思いたいんだ。やりたいことも見つかったし」