目を覚ますと、視線の先に見慣れない真っ白い天井が広がっていた。

「八月一日さん」

名前を呼ばれ、点滴スタンド越しに見知らぬ女性が私の顔を覗き込んだ。

「え? ここどこ?」

「病院ですよ。海で溺れて、運ばれたの」

「あ……あの、私と一緒に、誰かいませんでしたか?」

「あなたを助けた男の子? 別の病室にいますよ」

よかった。
看護師さんが立ち去るのを待って、私は点滴スタンドを引っ張ってこっそりベッドを抜け出した。

看護師さんが言っていた「男の子」の病室は、すぐに見つかった。

「あ」

健太と同じ歳くらいの知らない男の子が、ベッドサイドから親しげに手を振る。

「髪、染めたんだ。黒髪になりたいって言ってたもんね」

この顔、どう見ても直規の弟だ。
名前は確か……道哉くん。
道哉くんは、私を金髪と間違えているみたいだ。

私、いったいどっちの世界にいるんだろう。

戸惑っていると、道哉くんは私が遠慮していると勘違いしたらしい。

「俺、トイレ行ってくるから、後はよろしくね」

そう言って、病室を出て行った。