息切れしながら到着した逗子海岸は、夕焼け色に染まっていた。

砂浜に降りると、遠くに富士山が見えた。
沈み始めた夕日が、空と富士山を赤く染めていく。

昨日までの台風の影響なのだろう。
健太と一緒に見た時は凪いでいた海面に次々と波が押し寄せていた。
荒れた海で、サーファーたちが夕日を背負って波乗りをしている。

その中の一人に、私の目は吸い寄せられた。

がっしりと広い肩幅、逆三角形の上半身、
長い手足を持て余すようなしぐさ。
逆光で顔は見えないけど、間違いない。

「直規!」

お腹の底から声を絞り出し、ちぎれそうなほど大きく手を降る。
けれど、壁のように立ちはだかる波が私の声を跳ね返す。

「直規!」

私はもう一度叫ぶと、波打ち際へ駆け寄った。
その時、不意に大きな波が来て、足を取られた。

慌てて体勢を整えようとしたけれど、
海水をたっぷり含んだ砂に右足がめり込んでいく。

「あ」

しまった、と思う前に、私は派手に転んでいた。

立ち上がろうとする私の身体に次々と波が押し寄せる。
何度も波に顔を洗われ、息ができない。

苦しい。

水の中から見上げた水面に夕日がきらめく。
きれいだなと思うよりも先に、意識が遠のいていった。