「やっぱり」

「やっぱり?」

「さおりだけど、さおりじゃない。お前、一体誰なんだ?」

緑がかった茶色い瞳がじっと私を見つめる。

そのまっすぐな眼差しは、嘘やでたらめを言っているようには見えない。

それに「さおりだけど、さおりじゃない」って、
いったいどういう意味なんだろう。

「わかった。話だけなら聞く。
でも、変なことをしたら警察を呼ぶからね」

スマホで110を打つ真似をすると、
男は「はいはい、どうぞご自由に」と笑って歩き出した。

それにしても暑い。暑くてめまいがする。

半袖シャツのサラリーマンが、
すれ違いざまにぎょっとした顔で私を二度見する。

そんなに驚くこと……あるか。

私のバッグを肩に下げたこの男もこの前と同じ、Tシャツにハーフパンツだし。

紺色のダッフルコートを脱ぐと、男が振り返って私をじっと見つめた。

「何ですか?」

まだあなたを信用したわけじゃない。
そんな気持ちから、ついキツい言い方になる。

「今日はコスプレじゃないんだな」

「え? ああ。今日は学校、休みだから」

男は「ふうん」と頷くと、大股でさっさと歩き始めた。

背が高いだけあって、歩くのが早い。
「待ってよ」なんて言えるわけもなくて、仕方なく小走りで後を追った。