「昨日、スマホが壊れちゃってさ。これ、代替機なの。
しかも俺、風邪引いちゃってさあ。
踏んだり蹴ったりだよ、ほんと。さおりん、慰めてよ」

まったくもう。
悪いけど、今はフジミんのノリに付き合っていられないんだ。

「それより教えて。子供の頃、お父さんと行った海ってどこ?」

「へ?」

「ほら、春分の日に生しらす丼食べたって」

「ああ、あれね。逗子だよ。逗子海岸」

逗子! どうして気がつかなかったんだろう。
逗子なら、生しらすのお店があってもおかしくない。

「あの時そう話したら、さおりんも行ったことあるって言ってたじゃん。
あ、あれは金髪のさおりんか。おーい、さおりん?」

「ありがと。ちょっと急ぐから、またね」

乱暴に電話を切り、私は走り出した。
逗子海岸なら、鎌倉駅からJR横須賀線に乗って一駅の
逗子駅から走っていける。

まだ、間に合うかもしれない。
ううん、間に合わせてみせる。

私は夢中で走った。