一気にまくしたててから、急に怖くなった。

どうしよう、殴られるかも。

私は片方の手首をつかまれたまま、両手をぎゅっと握り締めた。

男が、驚いたような顔で私の顔をのぞき込む。
それから私の握りこぶしに目をやると、手をふっとゆるませた。

「乱暴なんてしないよ。ちょっと落ち着いて話さないか」

男が大げさに両手を広げて見せる。

「やましいことはない」とでも言いたいのだろうか。

「お互い、ちょっと誤解してる気がするからさ」

誤解? そんなことを言われても、
ああそうですかと信じるわけにはいかない。

でも、何か気になる。
この男と会うたびに感じる、妙な違和感。
それが何か、確かめてみたい気持ちもする。

「それにしても、すごい大荷物だな。
いよいよ本気で家出するのか」

男が私のナイロンバッグに手を伸ばした。

「あ、ちょっと!」

止める間もなく、
男は私のバッグを肩にかけ、歩き始めた。

「ちょっと、返してよ!」

取り返そうと伸ばした右手は、男の左手にあっさり捕まった。

「持ってやるって。どうせプチ家出だろ」

恩着せがましい上に勘違いってなんなの。
私は男の手を振り払って、バッグに手を伸ばした。

「自分で持てますから! 
っていうか、家出じゃないし!」

男は素早く私の手をかわし、じっと私の目を見つめた。