「るいさん!」

私は慌てて後を追った。
今ここで、るいさんが自分の世界に戻っちゃったら困る。
まだ話の途中なのに。

店を出ると、夜の闇に紛れるように、黒づくめの細い体が川沿いをゆらゆら歩いていた。

追いついて「るいさん」と呼び掛けると、うつろな目で振り向いた。

「私ね、怖かったの。
さおりを負担に思う日が来るのが。
だから、さおりには早く自分の道を見つけて欲しかった。
でも、さおりはそれが嫌だったみたい。
私が仕事に行っている間に、ふらっと出て行っちゃった」

うめき声がして、るいさんが川沿いの柵に駆け寄り、身を乗り出した。

「るいさん! だめ!」

私は夢中で駆け寄り、その細い腰にしがみついた。

「かおりちゃん、く、苦しい……。吐かせて」

すえた臭いがして、自分の勘違いに気づいた。

慌ててるいさんの背中をさすると、黒い長袖のニットの上からでも、体が骨ばっているのがわかった。