るいさんの口元が緩んで、優しい目になる。
私と目が合うと、るいさんは思い出したように言った。

「かおりちゃん、お腹空いてない？　
ここのハンバーガー、美味しいの。
さおりはこのハンバーガーがすごく好きでね。
かおりちゃんも気にいると思うよ」

るいさんのグラスも、いつの間にか空になっている。

私のハンバーガーと一緒にオーダーしたキューバ・リブレを
一口飲んでから、るいさんは話の続きを聞かせてくれた。

「逃げるように引っ越したけど、私はしばらく仕事もできない状態でね。
でも、さおりと一緒だから、寂しくなかった。
っていうより、毎日楽しかった。
さおりとＤＶＤを見たり、ドライブしたり、夜中にコンビニにアイスを買いに行ったり」

修学旅行の思い出でも話しているみたいな顔。
でも、不思議だ。
金髪ってば、直規にはあんなに冷たかったのに。

「さおり……さんは、毎日るいさんの家に遊びに行っていたんですか？」

「一緒に住んでいたの。あの子も家を出たがっていたから」

何だか、嫌な予感がする。

「さおりさん、大学とかは？行ってなかったんですか？」

るいさんが首を振る。

「私、さおりはフリーターだと思ってたの。
ずっと一緒にいてくれたから。
でも、そうじゃなかったんだよね。
単位が足りなくて辞めたって言ってたけど、私のことを放っておけなかったんだと思う。そういう子なの」

それってつまり……。
金髪が大学を辞めたのは、るいさんのそばにいるためってこと？

この人と金髪は、いったいどういう関係なんだろう。
私の心の中を察したように、るいさんがつぶやく。

「私たちは、お互いの心にぽっかり空いた穴にぴったりはまったんだと思う。
私にとってさおりは親友で、妹で、娘で……
さおりにとっても私は親友で、姉で、母で……」

るいさんは、自分で口にした言葉をかみしめるように宙を見つめる。

もしも直規が自分の苦しさを金髪に話していたら……
そうしたら、金髪の心の穴を直規が埋めることができたんだろうか。

私は頭に浮かんだ考えを振り払って、一番聞きたかったことを尋ねた。

「それであの、さおりさんは今、どうしているんですか？」

るいさんはグラスに目を落とすと、静かに首を振った。

え？　今の、どういう意味？

ぽかんとする私をよそに、るいさんは残りのお酒を一気に流し込んだ。
そして、店員を呼び止めてお金を払うと、無言で席を立った。