それにしても、なんだか頭が痛い。耳鳴りもする。

私は首に巻いていた、灰色がかった水色のマフラーを外しておでこに触った。
熱があるのかないのか、自分ではよくわからなかったけど。

風邪だったらイヤだな。

最近、時々こんなふうになる。

私の唯一の同居人である父は、脳神経外科の医師だ。
その父に相談しようと思わないなんて、我ながら自立していると思う。
というより、父はほとんど家にいないし。

診療の他にも学会とか、部下の指導とか、いろいろ忙しいらしい。
よく知らないけど。

そういえば、今日は冬至だ。
帰ったらゆず湯に入って、ゆっくり寝よう。

そのかわり、この時間に少しでも参考書を読んでおかなくちゃ。
いくら内部進学とはいえ、医学部の枠は狭いから、気は抜けない。

そう思って、カバンから参考書を取り出そうとした時だった。

「さおり!」

私を呼ぶ、怒った声。

ビクッと身体を震わせた私は、左の手首をいきなりつかまれた。