「さおりさんも、ここに来てたんですね」

「お互いウエストコースト・ロックが好きだってわかって、仲良くなったの」

ウエストコースト・ロックって何だろう。
そう思っている間にも、るいさんの話は進む。

「さおりはいつもキューバ・リブレを飲んでたなあ。
悪酔いしない子でね、いつもニコニコ笑って飲むの。
かおりちゃんも飲む?」

「高校生なんで」

首を振った私に、るいさんは「そうだったね」と苦笑いをした。

別人だと頭ではわかっていても、お酒で余計にこんがらがっているみたいだ。

「その夏の始めだったかな。
元夫の浮気相手が電話してきたの。
『旦那さんと別れて』って。
夫はあっさり認めたけど、どっちとも別れる気はないって開き直るし、何もかもめちゃくちゃになっちゃって」

なんだかすごい話だな。
こっちのるいさんがそんな状況になったら、毅然と立ち去りそうだけど。

「その時、ずっとそばにいてくれたのがさおりだった。
ボロボロになった私に『家を出なよ』って言ってくれたの。
『大丈夫だよ、私がいるから』って」