「このお店、まだあったんだ」

通りから少し離れたアメリカンダイニング。
そのカウンター席に座ったるいさんは、トロンとした目で店内を見回した。

「知らない人ばっかり」

呟くその顔は寂しそうだ。
きっと、自分が2017年の別の世界にいるなんて、思ってもいないと思う。

だいぶ酔っているみたいだけど、大丈夫かな。

看護師のるいさんとの違いに、心配になる。

視線に気づいたるいさんが、ワイングラスを揺らして微笑んだ。

「さおりの話は、飲まないとできそうにないの。ごめんね」

「あ、いえ」

慌てて首を振ると、るいさんは前に会った時と同じ目で私をじっと見た。

どうしてこんなにと思うほど優しくて、慈しむような目。

「見れば見るほどそっくりね」

それはそうだ。
5歳まで同じ人間だったんだもの。
それを知ったらこの人は喜ぶかな。

「いつ出会ったんですか? さおりさんと」

「私が離婚したのが38の時だから……2019年か」

「その、離婚した旦那さんって、どんな人だったんですか?」

いきなり踏み込んだのに、酔っているるいさんはあっさり教えてくれた。

「普通の会社員だよ。高校の同級生」

とりあえず、父でないことはわかった。

「当時はこの近くに住んでいて、時々仕事帰りにこの店に寄ってたの。
元夫は帰りが遅かったから」

遠い記憶をたぐるような、るいさんの目。