新学期が始まって3回目の土曜日の夕方。
塾の帰り道を、私は横浜駅へ向かって歩いていた。

横浜駅は普段から人が多いけど、土曜日はいつも以上に騒がしい。
駅の周りの繁華街は、まるでお祭りみたいだ。

ざわめきの中を歩いていたら、柱にもたれて呆然と人混みを眺める人に目が止まった。
 
美しい横顔が際立つ、全身真っ黒の服。
薄手のコートが人混みの中で目立っている。

「るいさん?」

その人はゆっくりと振り向くと目を見開いて、そして私を抱きしめた。

「さおり……戻ってきたの……?」

か細い声に混じる、お酒の匂い。

「るいさん? 大丈夫ですか?」

華奢な体を揺すると、るいさんはゆっくり体を離し、私を見た。

「あれ? かおりちゃん?」

るいさんの体が、ゆらりと揺れる。
慌てて支えると、るいさんは恥ずかしそうに笑った。

「ごめんごめん。頭がぐるぐるするの」