フジミんは知っているのかな。
あの日、道を譲った相手が誰なのか。

その時、気づいた。

12年前の出来事は助かった側にとって、単なるラッキーで終わらない、重い幸運だったのかもしれないと。

私はじっとフジミんを見つめた。
けれど、やっぱりフジミんはフジミんだった。

「俺、今いいこと言ったよね? 
じゃ、受験が終わったらデートしよ♡」

まったくもう。心配して損した。

私は苦笑いでいつものように「しません」と冷たく返す。

プイと横を向いたら、フジミんに優しく頭を撫でられた。

直規と同じ、大きくて温かい手。

目をつぶると、直規に撫でられているような気になる。

けれど、そんな気になるだけだ。
直規にされたらうるさいほど高鳴る心臓も、平常運転だ。

やっぱりフジミんはフジミんで直規じゃない。

そのことが寂しいはずなのに、ホッとしている自分に気づく。

私が好きなのはこの顔じゃなくて、枝分かれした先にいる直規だ。

だから。
同じ顔のフジミんがちょっと真面目になったくらいで心が揺れたりはしない。

そう実感できたのが嬉しくて、そして寂しくなった。