「俺、頑張るよ。
どんな花を咲かせるのか、お互い楽しみだね」

フジミんが子犬みたいに笑いかける。
その笑顔は、今の私にはちょっと眩しすぎた。

「どうかな。
私が持ってた種は、半分持っていかれちゃったから。もう一人の私に」

いつの間にか、空はオレンジからデニムみたいなネイビーブルーになっていた。
みなとみらいの夜景に、コスモクロックが鮮やかに浮かび上がる。

大好きな場所を思い出の場所にしてくれた直規は今、どうしているのかな。
多分、毎日頑張ってるはずだ。
だから。

「でも、私も頑張るよ。
お母さんが守ってくれた命なんだし、その分、誰かの役に立たなきゃ」

海を見ていたフジミんが、驚いた顔で私を見た。

しまった。
フジミんにはあの事故の話をしてなかったんだっけ。

「それ、ちょっと違う気がする」

「え?」

「言いたいことはわかるよ。
俺も何度か死にかけたから。
でも、助かったから特別ってわけじゃないし、特別だから助かったわけでも
ないんじゃないかなあって」

いつもよりきっぱりとした喋り方。
戸惑いつつ、夕闇に紛れるフジミんの顔を見上げる。

「それに、助からなかった人が特別じゃなかったってことでもないと思うんだ」

見透かされてる。
悲劇のヒロインぶっていることも、私の傲慢さも。

思わず目をそらすと、フジミんは軽やかに言った。

「何が言いたいかっていうとー、
さおりんは好きに生きればいいと思うよってこと!」