夏休みの間、一番顔を合わせたのがフジミんだなんて。
世の中は本当に理不尽だと思う。

塾で会うと
「デートしよ♡」
「しません」
というくだらないやりとりが、お約束になっている。
クラスが違うのがせめてもの救いだ。

そんなフジミんに押し切られ、私は今、汗だくで自転車を漕いでいる。

断るのが面倒だった、というのは言い訳で、直規とは別人だとわかっていても、この顔を見ていたかった。

夏ももう終わるというのに、夕方の太陽は手を抜かずにギラギラと照りつけてくる。

夏休みの間ずっと、引きこもって勉強ばかりしていた身には、ほとんど罰ゲームだ。

「ねえ、どこまで行く気?」

やっと信号で追いつくと、私はキレ気味に尋ねた。

「もう着いたよ。ほら」

涼しい顔でフジミんが指差した先に、コスモクロックがそびえている。

「一人で乗って来てよ」

「えー。ここまで来たんだからさ、乗ろうよ」

「やだ」

直規との記憶をフジミんで上書きしたくない。

「だいたい、何でわざわざ自転車レンタルしてまで来なきゃいけないわけ?」

「だって楽しいじゃん。
夏休みも今日で終わりだし。
それに、さおりんが言ったんだよ? 
いつかコスモクロックに乗りたいって」

「私が? いつ?」

「ゴールデンウィークにずぶ濡れで会った時」

「だからそれは……」

「さおりんじゃないんでしょ? 
でも俺、思うんだけどさ。
さおりんとあの金髪のさおりんって、
二人で一人みたいな感じだよね」

「えっ?」

「あ、青だ。行くよ」

フジミんはそう言うと、さっさと先に行ってしまった。