一気に喋って疲れたのか、真紀子さんは大きく息を吐いた。
私も同時に息を吐いて初めて、自分まで息を止めて
真紀子さんの話を聞いていたことに気づいた。

色白の枯れた手で優雅にカップを持ち、真紀子さんは冷めた紅茶を一口飲んだ。

「知らなかった……」

思わずつぶやいた私に、真紀子さんはかすかに口の両端を持ち上げた。

私の知っている真紀子さんの笑い方だ。

「いいんですよ、知らなくて。こんな年寄りの昔話なんて」

「いえ、知りたかったです。もっと早く」

もっと早く知ったからといって、何も変わらなかったかもしれない。
今の私だから受け止められたのかもしれない。

だけど、やっぱりもっと知りたかった。
真紀子さんのことを。

あの事故の日。
お母さんは真紀子さんに助けを求めて断られた。

こっちの世界のお母さんの人生は続いていったけど、結局みんなバラバラになってしまった。

こちらの真紀子さんもまた、お母さんを助けなかったことを後悔しているのだろうか。心のどこかで。