「兄は、陸軍の軍医見習い士官として召集される時、私に言ったの。

『もしも僕が戻ってこなかったら、真紀子がこの医院を守るんだぞ』って。
私はイヤよ、絶対に帰ってきてって駄々をこねたわ。でも、この時ばかりは、兄も甘やかしてはくれなかった。

『医師と結婚しても、相手も死ぬかもしれない。だから真紀子が医者になれ』

そう約束させられた。

兄たちがいなくなってから、戦争はますます激しくなる一方でね。
横浜の中でもあの辺りは空襲の被害がひどくて、一面焼け野原になったわ。

医院と母を空襲で失った父は、同じ場所に医院を再建したの。
兄が戻ってくると信じたかったんだと思うわ」