心臓の派手な鼓動に気づかれたくなくて、私は勢いよく立ち上がった。

「あ、見て! タンカーかな」

直規に背を向けて、暗い海を指差す。
直規は私の左手を強く引っ張り、自分の横に座らせた。

「いいから座っとけって」

「だって」

「それより、さっき飲んでたラテに、チョコレートソース入れた?」

直規が、私から目を逸らして尋ねた。

どうして今、そんなことを聞くんだろう。

「ううん」

首を横に振ってから、質問の意味に気が付いた。
頬が一瞬で熱くなって、心臓がこれ以上ないほど速く鳴り響く。

だめだ、このままだと、
本当に心臓が破裂しちゃうかもしれない。
いや、そんなはずないってわかってるけど。

バンジーのジャンプ台でも、こんなにドキドキしなかったのに。
膝の上でぎゅっと握った私の左手に、直規が右手をそっと重ねる。

「さおり」

優しく名前を呼ばれて、顔を上げた。

直規の顔がゆっくり近づいてくる。
目を閉じた私の唇に、直規がそっと唇を重ねた。

ひんやりとして、だけど温かくて。
触れ合っているその一カ所に、お互いの気持ちが注ぎ込まれていくのがわかる。

体の中の、こんなに小さな一カ所だけで触れあっているだけなのに、
どうしてこんなにドキドキするんだろう。
胸の奥から、熱い塊が蓋を押し上げて溢れ出していく。