虚ろな目の真紀子さんが、何かを探す仕草を見せた。
「ない……手帳が」
「手帳? どんな?」
思わず聞き返したけど、思った通り、答えは返ってこない。
手帳なんて、見たことないけどな。
そう思いながら、一応真紀子さんの部屋を見てみたけど、やっぱりない。
もしかしたら、家になるのかもしれない。
「今度、探しておくね」
私ができるだけ優しく言った言葉に、真紀子さんはピクリとも反応しない。
その心はここではない別の場所をさまよっているのだろうか。
元気だった頃の真紀子さんは、
「折り紙の名人が折った鶴」みたいな人だった。
折り目正しく、先端がピンと立っている折鶴。
尾が針のようにとがった折鶴は、
気軽に「おばあちゃん」と呼ばせない威厳が漂っていた。
今の真紀子さんは、昔とは別人みたいに虚ろな顔をしている。
けれど、凪の海のような穏やかさも感じる。
面倒なことから解放されたからだろうか。
焦点の定まらない目でぼんやり外を見ていた
真紀子さんが、ふとつぶやいた。
「ゆかりさん……ごめんなさい」
今、ゆかりさんって言った?
ゆかりさんて、私のお母さんのことだよね?
どういう意味?
今まで、お母さんの話すらしたことなかったのに。
そもそも、真紀子さんが「ごめんなさい」なんて言うだろうか。
これまでずっと、横断歩道の真ん中を
堂々と歩くような正しい生き方しかしてこなかった人だ。
その真紀子さんが謝るなんて、ちょっと考えられない。
「何がごめんなさいなの?」
けれど、真紀子さんは再び自分だけの世界に入りこんでしまい、
答えてはくれなかった。
「ない……手帳が」
「手帳? どんな?」
思わず聞き返したけど、思った通り、答えは返ってこない。
手帳なんて、見たことないけどな。
そう思いながら、一応真紀子さんの部屋を見てみたけど、やっぱりない。
もしかしたら、家になるのかもしれない。
「今度、探しておくね」
私ができるだけ優しく言った言葉に、真紀子さんはピクリとも反応しない。
その心はここではない別の場所をさまよっているのだろうか。
元気だった頃の真紀子さんは、
「折り紙の名人が折った鶴」みたいな人だった。
折り目正しく、先端がピンと立っている折鶴。
尾が針のようにとがった折鶴は、
気軽に「おばあちゃん」と呼ばせない威厳が漂っていた。
今の真紀子さんは、昔とは別人みたいに虚ろな顔をしている。
けれど、凪の海のような穏やかさも感じる。
面倒なことから解放されたからだろうか。
焦点の定まらない目でぼんやり外を見ていた
真紀子さんが、ふとつぶやいた。
「ゆかりさん……ごめんなさい」
今、ゆかりさんって言った?
ゆかりさんて、私のお母さんのことだよね?
どういう意味?
今まで、お母さんの話すらしたことなかったのに。
そもそも、真紀子さんが「ごめんなさい」なんて言うだろうか。
これまでずっと、横断歩道の真ん中を
堂々と歩くような正しい生き方しかしてこなかった人だ。
その真紀子さんが謝るなんて、ちょっと考えられない。
「何がごめんなさいなの?」
けれど、真紀子さんは再び自分だけの世界に入りこんでしまい、
答えてはくれなかった。