新逗子駅から乗った普通電車の中で、私は必死に涙をこらえていた。

ぎゅっと握った手のひらに爪の後が付いている。

学校のある金沢八景駅で急行に乗り換えようとホームに降りると、
むわっとした蒸し暑さに包まれた。

戻ってきちゃった……。

健太と別れたほんの十分前が、遠い夢のことみたいだ。

それなのに、体から空気が漏れているような喪失感だけは、
やけにリアルなのがやるせない。

暑さで頭がうまく働かない。
それを言い訳にして、改札を出た。

学校に行ったって、どうなるわけでもないのに。
だけど、今の私にとって救いはそこにしかないような気がした。

夏休みの学校に、蝉の声だけが響く。
夕方の風が吹き始めたチャペルの前で、私は立ちすくんだ。

私って、こんなに寂しがりだったっけ。

違う。

再び失うのが怖くて、何かが自分の心をいっぱいにするのを避けていただけだ。

この扉から直規が現れるかもしれない。
この角を曲がったら、会えるかもしれない。
そんな期待が、いつも心の隅にある。

けれど期待は裏切られ続け、一ヶ月以上経っていた。

会いたい。
今すぐ直規に会って、すべて受け止めてほしい。

無駄だとわかっていながら、私は大学のプール棟へ向かった。