祖母のロッカーに新しい下着と服を入れたら、広間にいるはずの祖母を探す。

冬の優しい日差しがたっぷり差し込む窓際の一番奥。
祖母は車椅子に座って遠くを見ていた。

「真紀子さん」

驚かせないよう、そっと声をかける。
だけど、真紀子さんはピクリとも反応しない。

私は近くの椅子を引いてきて、隣に座った。

父の母、つまり私の祖母である真紀子さんは、耳鼻科の医師だった。

「時間と収納は、四角い箱で考えなさい」

ここに来る前の真紀子さんの口癖だ。

クローゼットの中を四角い収納ケースで隙間なく埋めるように、
真紀子さんは朝起きてから夜寝るまでのスケジュールを組んでいた。

6時に起きたら7時まで洗濯機を回しつつ朝食の支度。
7時から朝食と後片付け。
8時に自宅を出て診察の準備をすませると、
9時から12時まで診察、という具合に。

「ムダや空白のない一日を積みあげていくこと。
それこそが目標を確実にクリアする秘訣なのです」

にこりともせずにそう言っていた真紀子さんは今、
人生で初めて、空白の時間を過ごしているのかもしれない。