「母さんが会いたがってた人。
前に話した、姉ちゃんと同姓同名の人」

健太くんがその大きな体をさりげなく玄関の壁に寄せると、目の前に懐かしい人が現れた。

ああ……お母さんだ。

私が覚えているのは、アルバムの写真で記憶を補完したお母さんの顔だけど。

私にとっては12年ぶり。
ただし、こっちの世界ではあれから20年が経っていることになる。

20年分、歳を取ったお母さんの顔。
その目が大きく開く。
そして、息をするのも忘れたように動かなくなった。

「さおり……?」

やっとの事で絞り出した声。
口元を左手で覆い、恐る恐る右手を伸ばす。
私の左の頬に触れる、懐かしい手の平。

けれど、お母さんはビクッと弾かれるように手を離した。

「ごめんなさい。初対面なのに、いきなり」

「こちらこそ、すみません。突然お邪魔しちゃって」

「いいのいいの。どうぞ入って」

お母さんは急いでスリッパを出し、改めて私の手を取って家の中に引き入れた。