本当に、いいのかな。

いつもとは逆方向の、新逗子行きの京急逗子線に揺られながら、私の心も揺れていた。

私が死んだ世界で、生きているお母さんに会う。
してはいけないことをしているような気持ち。
背筋に寒いものを感じて、思わず自分の腕をさする。

「10月に夏服じゃ寒いですよね。これ、着てください」

大きなスポーツバッグから黒いジャージを取り出して、私に差し出した。

「あっ、着てないんで、きれいですよ」

慌てて言い訳する顔がかわいい。
健太くんのジャージは私には大きくて、馴染みのある匂いがした。
お母さんが好きな、外国の柔軟剤の匂い。

「うちと同じ匂いがする」

自分が言った言葉に、気持ちが高ぶる。

「やっぱり俺たち、家族だ」

無邪気な笑顔に、気持ちが少し和らいだ。