「そういえばこの前、言ってたでしょう。
『お願いがある』って。
あれ、何ですか?」

そうだ。ここのところ、いろんなことがありすぎて忘れてた。

「あの日……あの事故があった日。
どうしてお母さんと私が関内にいたのか、知ってたら教えて欲しいんだ」

真紀子さんから最後に聞いた、言葉らしい言葉。
それは「ごめんなさい」と「ゆかりさん」だった。

なぜ私たちがあの日、関内にいたのかがわかれば、真紀子さんの言葉の意味がわかる気がした。

「それは、俺も知らないんです」

「そっか」

それなら仕方がない。
それに、真紀子さんもお母さんも死んでしまったのに、今さら知ってどうなる。

頭ではわかってる。
だけど、今の私は、何か一つでも納得できるものが欲しかった。

健太くんは、そんな私の気持ちを察したのかもしれない。

「だったら、直接聞いたらどうですか?」

「誰に?」

「本人に。一緒に帰りましょう。俺たちの親がいる家に」

 健太くんの大きな手が、私の腕を引っ張った。