少しためってから、健太くんが口を開く。

「俺ね、親に勉強しろって言われたことないんですよ。
姉ちゃんの分まで元気に生きていてくれればいいって。
でも、そう言われると……」

「そう言われると?」

「俺が姉ちゃんの人生を横取りしたような気がしちゃって。
だから、さおりさんも母さんも生きている世界に自分がいないって知って、やっぱりなって思ったんです」

私の顔色をうかがう健太くんに、うんとうなずく。

「姉ちゃんが生きていたら、母さんは俺を生まなかったんだ、って。
俺は姉ちゃんが亡くなったから生まれてこられた存在なんだって思ったら、複雑っていうか……」

そんなことを考えていたなんて。

叱られた子犬みたいな顔を見ていたら、お姉さんぶってみたくなった。

「まったくもう、ばかだなあ、私の弟は」

ばかと言われたのに、健太くんは「へへ」ともう一度おでこを掻いた。

こんなこと、今まで誰にも言えなかったんだろうな。

「でもね、わかるよ、その気持ち。
私も自分が死んだ世界があって、しかもそこで両親が幸せに暮らしてるって知って……ちょっと複雑だった」

健太くんの顔が曇る。
わかっていたけど、本当のことを言っておきたかった。

「だからね、似たもの姉弟だねって話」

「ね?」と同意を求めると、
健太くんは「ですね」と笑った。
顔は似てるのに、父とは全然違う自然な笑顔。