「そう思うよね、あれじゃ。
でも、どうでもいいわけじゃないと思うよ」

「そうかな」

「受け止めきれないんだと思う。存在が大きすぎて」

わかるような気もするけど、わかると言いたくない。
結局、逃げてるだけだし。

黙り込んだ私をるいさんが覗き込む。

「どっちにしても、家族は大変よね」

「っていうか、仕事だけじゃないですよね、あの人が家に帰ってこないのは」

別に、るいさんを責めているわけじゃない。
それは伝わったのだろう。
るいさんは「ふふ」と意味深に笑った。

「ダメなところとすごいところが両方ある人って、魅力的だと思わない?」

そうきたか。

「野村さんって、ダメ男に引っかかるタイプじゃないですか?」

負けずに言い返すと、るいさんは大きな口を開けて笑った。

「私、好きだわ、さおりちゃんのこと」

今の私の立場なら、もっと嫌悪感を感じてもおかしくないのに。
どうしてだろう。
るいさんのことはなぜか憎めない。

「ありがとうございます」

本心だってことは伝わったらしい。

るいさんは「どういたしまして」と私の顔を見てまた笑った。