「す、すごい車ですね」

後ろに羽みたいな部品が付いた、ツーシーターの黒くてゴツい車。
グンと体が持っていかれる走り出しに、思わず本音がこぼれる。

病院を出るまでの間にちょっと話せたらいいと思っただけなのに、
まさか駅まで送ってもらうことになるとは。

「GT-Rって言うの。いいでしょ。ま、中古だけどね」

ニヤリと笑った顔は中学生男子みたいで、いつもよりも親しげだ。

「野村さんて、神奈川出身ですか?」

「そう。愛川町って知ってる? 
ダムはあるけど駅がなくて、駅までバスで50分くらいかかるところ。そこが私の地元」

知らない。

答えに詰まると、るいさんは私の反応を楽しむように「ふふ」と笑った。

私の周りにはいないタイプの大人の女の人。
だから、ちょっと緊張する。

「あの、どうして看護師になろうと思ったんですか?」

るいさんがちらりと私を見た。
唐突な質問だってことは、わかってる。

「自立したかった、それだけ」

「でも、他の仕事と迷ったりしなかったんですか? 
例えばほら、ヘアメイクさんとか」

「ヘアメイク? 
まあ、将来美容師になるんだろうと思った時期もあるけどね。
でも、それだと家を出られなくなるって気づいたの。母が美容院をやってたから」

なるほど、そういうことか。

「美容院じゃなくて、病院……」

思わずつぶやくと、るいさんが笑った。

「それ、よく言われる。
まあ、看護師ならどこでも仕事はあるし、しっかり稼げそうだなって思って」

なるほど。そういう選び方もアリなんだ。