「私はこれから夜勤なので。
先生、お大事に」

そう言うと、るいさんは颯爽と病室を出て行った。
やっぱり向こうのるいさんとは全然違った。

問題は、父だ。
父のことなんて放っておいてやりたいけど、知らんぷりもできない。

すぐに夏休みに入ったから助かったけど、それでも塾と病院の行き来は疲れる。
しかも、むっつり黙り込んだ父と病室で無言のまま過ごすなんて、はっきり言って時間の無駄だ。

そんなことを考えていると、こっちのるいさんが絶妙なタイミングで顔を出す。

父が倒れた日に、2回かかってきた電話。
そのうちの1回目はこの人だ。

私はそう確信していた。

こっちのるいさんは向こうのるいさんとどこがどう違うのか。
私は、知らなきゃいけない気がしていた。

なのに、こっちのるいさんはいつも仕事の話が終わるとすぐに帰ってしまう。

だから、この日は「じゃあ、私はこれで」と
るいさんが立ち去るタイミングを狙って、「私も」と立ち上がった。