今さらそんな顔をするくらいなら、もっと親に会いに行けばよかったのに。

そう思っていた時だった。
父の喪服の内ポケットのスマホが震えた。

取り出したスマホを確認すると、父は素早く立ち上がった。

「行ってくる」

「は? どこに」

「病院」

「え、だって、もうすぐ骨上げだよ?」

「急ぐんだ」

「他にも医者はいるでしょ。病院なんだから」

「難しい患者だから」

「真紀子さんはどうするの?」

すがりつくように、喪服の腕をつかむ。

「竹子は死んだ」

「それが医者の言う言葉?」

「患者は生きてる」

「だからって……」

父が私の腕をそっと離す。

「お父さん!」

こんな時まで、置いていかないでよ。

私の心の叫びから目を背けるように、父は小走りで火葬場を出て行った。
一回も、振り向かずに。

あの人はいったい、何のために仕事をしているんだろう。

自分の奥さんが死んでも、母親が死んでも、いつも通り仕事に行く。
娘を置いて。

私はもう、一人なんだ。
三角形の大きな一辺だった
真紀子さんを失った今、父と私は家族という形さえも作れなくなってしまったのだと悟った。