ロビーの大きな窓から梅雨の晴れ間の日差しが差し込む。
ここはひと気がなくて、ホッとする。

と思ったら、先客がいた。
さすが親子、考えることが同じだ。

離れて座るのも変なので、近くのソファにそっと座る。
すると、父がびくりと身体を震わせた。
いつも以上に生気がないのは、疲れているからだろう。

「竹子かと思った」

「竹子?」

「あの人、杓子定規だろ。
昔の定規は竹だったんだよ。
丈夫でなかなか折れなくて」

昔を思い出したのか、父が口の端を歪ませる。
相変わらず、わかりにくい笑い方だ。
というより、こんなに喋る父を見たのは初めてかもしれない。

「ミニ竹子」

父が私を指差した。確かに。
私は真紀子さんに似てるかもしれない。
お母さんに似ているかどうかはわからないけど。

「竹子は死なないと思ってた」

「それが医者の言う言葉?」

思わず笑うと、父もつられたように笑った。
さっきよりも自然な笑い顔だ。
けれど、すぐにまた生気のない顔に戻る。