「なんでって…」

私は口ごもった。
悔しいけど、うちの大学の医学部は、
父とお母さんが出会った医大よりランクは下がる。

でも、うちの大学でも内部進学の医学部枠は限られているから、
それなりに勉強しなきゃいけない。

だからと言って、今さら他の大学の医学部を受けるのは効率が悪い。

「すみませんね、出来の悪い娘で」

私だって頑張ってるのに。
私は父みたいに勉強だけできるような環境でもないのに。

「誰のせいだよ」という一言をかろうじて飲み込む。

不機嫌な私に気づいた父が、
「まあ、あれだ」と困ったようにおでこをかいた。

そしてさっきと同じ言葉を繰り返した。

「無理しなくていい」

「は?」

それ、どういう意味? 
必死に勉強しなきゃ入れないようなレベルの私に
医師なんて無理だって言いたいのだろうか。 

そんなこと、なんで今さら言うんだろう。
私は医学部に入って医師になる。
そういうものだと思ってきた。
思い込まされたと言った方が正しいかもしれない。

「今さらそんなこと言わないでよ」

父の目はテレビ画面から動かない。

「私、もうすぐ高三だよ」

精一杯の抗議を込めた私の言葉に、父がゆっくりと振り向いた。

「ちょうどいいだろ」

まだ、今なら間に合う。そう言いたいんだろうか。

私がそう考えているうちに、
父は「ごちそうさま」とソファへ逃げてしまった。

ずるい。この人はいつもこうだ。
肝心のことは言わずに私をイラつかせて、
挙げ句の果てにこうやって逃げる。
しかも、よりによって元旦にいるなんて。
いつもいないくせに。

テレビはロシア語講座からイタリア語講座にいつの間にか変わっていた。