「期末前なのに、風邪引くよ。何してるの」

「直規に会えるかなと思って。前にここで会えたから」

思わず言ってしまってから、美園の顔を見た。

ごめんと言うよりも先に、
教室に連れ戻された。
私の頭をタオルで拭きながら、美園がポツリとこぼす。

「昨日、あれからフジミんに会いに行った」

え、と振り向こうとしたら、
「じっとしてて」と頭を押さえられた。

真澄も黙って私の腕や肩を拭いてくれている。

「ピアスもしてたし、目の上の傷もあった」

「うん」

「パラレル何とかっていうのは
よくわかんないけど……
昨日、さおりと一緒にいた
佐藤直規って人は、
確かにフジミんとは別人だって思った」

「話してる感じが、まったくの別人だったしね」

真澄もしみじみとつぶやく。

「さおりとあの人を見てたら、
わけわかんなくなっちゃって。
顔はフジミんと同じなのに、
話すと別人だし、それに……」

美園の手が止まる。
口も止まった美園の代わりに、真澄が言った。

「さおりのあんな顔、初めて見たもんね」

「あんな顔?」

「好きなんでしょ、あの人のこと」

今度ははっきりと、美園が言った。

「うん。好き……なんだと思う」

やっと、二人に言えた。
石みたいに重かった胸のつかえが、一つ取れた。