「家まで送るとか待ち合わせとか、
普通のカップルみたいだな」

「え!?」 

直規の一言に、心臓が跳ねる。

自分で言っておきながら、
直規は照れたように目をそらした。

いつもは長く感じる坂道も、
今夜は短く感じる。
ゆっくり歩いたのに、家は目の前だ。

「じゃあ、またな」

「うん。また」

「早く家ん中入れよ」

「直規が行ったら入る」

まったくもう、
と苦笑いしてから、直規は
「じゃあ、本当に、またな」
と歩き出した。

大きな背中が、
だんだん小さくなっていく。

時折振り向いて、
「早く入れ!」と片手を振る。

いつまでも見ていたくて、
その姿が暗闇にまぎれて見えなくなるまで見送った。