「ねえ、グリコで向こうまで行こうよ」

海に沿って縦長に広がる山下公園の端っこを指差す。

「グリコって、昭和かよ」

そう笑いながらも、直規は付き合ってくれた。

じゃんけんぽい。
パ・イ・ナ・ッ・プ・ル

「直規の根っこって、なあに?」

制服のスカートを跳ね上げながら尋ねた。

じゃんけんぽい。
チ・ョ・コ・レ・イ・ト

私を軽く追い越しながら、直規が答える。

「俺を守ってくれた親父、かな」

じゃんけんぽい。
グ・リ・コ・の・お・ま・け

できる限りの大股で直規を追いかける。

「だからライフセーバーになったの?」

じゃんけんぽい。
チ・ョ・コ・レ・ー・ト

狭い歩幅で進んでから、直規が振り向く。

「まあね。
親父の命と引き換えに
助かった身として、
誰かの役に立たないと、みたいな」

同じ立場の私の胸が、チクリと痛む。

じゃんけんぽい。
パ・イ・ナ・ッ・プ・ル

必死に追いかける私に、直規が続ける。

「でも、今は単純に楽しいんだ。
海に行くのが。
ボードで波に乗る練習してる時、
いい波にピタッとハマると、
本当に最高だなって思うんだ」

じゃんけんぽい。
グ・リ・コ・の・お・ま・け

やっと直規に追いついた。

直規を見上げた頬に、
雨粒が一つ、落ちてきた。
夕方止んだ雨が、また降り出した。