「金髪の母ちゃんは、
まさか中学生の娘を置いて
自分が家を出るとは
思ってもいなかったと思うんだ。
でも、真紀子さん違ったんだろうな」

「いつ自分がいなくなってもいいように、
わざとクールに接した…ってこと?」

「それはもともとの性格もあるだろうけど、
自分がいなくても、
さおりがちゃんと生きていけるように育てたってことはわかるよ」

少しずつ真紀子さんらしさが失われていく中で、何度も言ってたっけ。
「私がいる時と同じように暮らしなさい」って。

「金髪の根っこは、お母さんだったのかな」

「たぶんな」

「辛かっただろうね。
そんな形で自分の根っこと離れるなんて」

「まあ、それで俺も
甘やかしちゃったんだよな。
薄々感じてはいたんだ。
俺と金髪はもうダメだって」

「ふうん」

「でも、向こうか別れようって言われて
別れるのが悔しかったのかもな」

あんまり聞きたくないけど、
やっぱり聞きたい。
だから、次の言葉をじっと待った。

「金髪に言われたんだ。
俺といると、
大福のあんこになった気がするって」

「大福のあんこ? 何それ」

「『餅に隙間なくぴったりくるまれて身動きが取れない感じ』だってさ」

なるほど、
と頷いたら直規が苦笑いした。

「この前、弟と大げんかした時にも言われたよ。
『兄貴といると、自分がダメなヤツに思えてくる』って。
俺は『自分がいなきゃ』って
思わせて欲しかったのかもな。
金髪にも弟にも」

落ち着いて話すその顔は、
すでに吹っ切れているように見えた。

「ダセエだろ」

「ちょっとね」

「おい!」

「でも、直規は逃げないじゃん。
だから、強い」

ふと父の顔が浮かんだ。
あの人は逃げている。
私からも、真紀子さんからも。

直規が苦笑いで下を向いて、会話が途切れた。
周りを見ると、どこもカップルだらけだった。
みんな自分たちの世界に入り込んでいて、大人の時間って感じ。

場違いな気がするけど、
まだ帰りたくない。
だから、無邪気なふりをしてみた。