暗い海に浮かぶ氷川丸の前で、
やっと直規に追いついた。

氷川丸の船首からマストを通って
船尾へ続くイルミネーションが、
真珠のネックレスのようにきらめいている。

「大丈夫か?」

イルミネーションに見とれていたら、
直規に心配された。

「今の聞き方じゃ、
大丈夫って言うしかないか。
さおりはすぐ『大丈夫』って言うけど、
大丈夫じゃない時は言わなくていいよ」

「え?」

「大丈夫って言葉は、使いようによっちゃ、
人と人との距離を遠ざけることもあるんだからな」

そうなの? 言っていいんだ。
大丈夫じゃないよって。

だけど、「金髪を甘やかしてる」
なんて私から言ったくせに、
ずるいかな。ずるいよね。

「いや、これは甘やかすとかじゃないから」

何も言ってないのに。
私が何を考えているかなんて、
直規にはバレバレだ。

「ありがと」

「おう」

「さっきね、真紀子さんが病院に運ばれたって聞いて、
自分があんなに動揺するなんて思わなかった」

「そっか」

「ちゃんと会話できなくなってずいぶん経つし、
真紀子さんは孫にもクールな人だったし……
でも、いなくなるかもって思ったら、
どうしていいかわかんなくなって」

「それはたぶん、
真紀子さんがさおりの根っこだからじゃないか?」

根っこか。確かにそうかもしれない。

「さっき、一緒に施設に行ってわかった気がしたよ。
どうして金髪とさおりがこんなに違うのか」

そんなに違うの? どうして?

「真紀子さんも金髪の母ちゃんも、
それぞれさおりを大切に育てたと思うんだ。
でも、二人の残り時間は全然違った。
意味わかる?」

わかんない。黙って首を振った。