どうしよう、どうしよう。
赤い快特電車からみなとみらい線に乗り換えても、
私は胸の前で祈るように両手を組んで目を伏せた。

この前まで、あんなに元気だったのに。
いや、それはあちらの世界の真紀子さんか。
ああ、もうわけわかんない。

大丈夫だと言うかわりに、
直規の手が遠慮がちに私の背中をさする。

その大きくて温かい手に支えられて、
山手すこやか苑へ駆け込んだ。

「電話をもらった、八月一日真紀子の家族です」

「ああ、八月一日さんの」

奥からなじみの職員さんが出てきてくれて、
真紀子さんが肺炎になったこと、
隣の病院に入院したことを教えてくれた。

「一応、入院手続きをお願いしたいと思って
お父様の携帯に連絡したんだけど、繋がらなくて」

「すみません。私から伝えておきます。
あの、それで、病室は? どこですか?」

「東棟3階の302号室。
でも、今日はもう面会時間が過ぎているから、会えないの」

「でも……」

「大丈夫よ。
病院は完全看護だし、私たちもいるし。
もう遅いから、彼氏にお家まで送ってもらって」

職員さんは「ね」と直規に視線を合わせて笑顔を見せた。

いや、彼氏って、まだそういうわけじゃ……。

一人パニクって、口の中でごにょごにょ呟いていると、
直規に「そうしよう、さおり」と背中を押された。

山手すこやか苑の建物を出たとき、
私はとっさに後ろを振り返った。