「私、先に帰るね」

 美園はそれだけ言うと、私と目も合わせずに店を出て行った。

「美園、待ってよ。さおり、また明日ね」

真澄は律儀に私に手を振ってから、走って美園を追いかけた。

「行かなくていいのか?」

直規が心配そうに扉の方を見たけど、
私は「大丈夫」と頷いた。

私は、正直に全部話した。
それからどうするかは、美園の自由だ。

「まあ、あの状況じゃあな」

同情するように私を見てから、直規は大きく伸びをした。

「女子高生に囲まれて、緊張した?」

さっきまでの直規の顔を思い出すと、
こんな時なのに笑える。
怒るかと思ったら、直規は神妙な顔で私を覗き込んだ。

「悪かったな。
俺があんなところで待ってたせいで」

「ううん、逆だよ。美園と話すきっかけになった。
信じてくれるかわからないけど」

だな、と直規が頷く。

「それより、さっきの話だけど……」

「さっきの話? なんだっけ」

そう言われると、聞きにくいんですけど。
私はすっかり冷めたカフェラテをスプーンで無駄にぐるぐるかき回した。
チョコレートソースが入ってないやつ。

「金髪と別れたって……どうして?」

「ああ」と直規が苦笑いをした。

「まあ、薄々わかってたけど、
この前さおりにズバッと言われて踏ん切りがついたっつーか」

「えっ、私のせい!?」

「別にさおりのせいじゃないよ。実はさ、」

ブルルルル。まるで図ったように、テーブルの上のスマホが震えた。

もう、こんな時に誰よ!? 

心の中で文句を言いつつ無視できなかったのは、
それが「山手すこやか苑」からの電話だったからだ。