そしてまた世界は枝分かれする

関東地方が梅雨入りして二週間過ぎた、夏至の日。
3年生になっても細々と続けていた図書委員の当番を終えたのは、
5時を回った頃だった。

しんと静まり返った校舎を抜けて昇降口を出ると、
朝から降り続いていた雨が止んでいた。

雲の隙間から西日が差して、目の前に大きな虹がかかっている。
しかも、絵本に出てくるような、見事なダブルレインボー。

虹は祝福のしるしなんだってさ。

前に、パン田くんが図書室でそう話してた気がする。
誰かに教えたいけど、あたりはしんと静まり返っている。
残念だけど、独り占め。

スマホのカメラのシャッターを押した時、
画面に映り込んだ大きな木の下に、人が立っていることに気づいた。

マリンブルーのメッセンジャーバッグを提げたその人が誰なのか、
遠くからでもすぐにわかった。

雨上がりの道を、お互い駆け寄った。
目の前まで来て、右手で左耳を触る。

そんなことをしなくてもわかるけど、
二人だけの合図を送り合うのが、くすぐったくて嬉しい。

照れ笑いを隠すように上を向いた直規の短い髪の先が、
雫でキラキラ光っている。
私は慌ててカバンからハンドタオルを取り出した。

「建物の中に入っていればよかったのに」

背伸びをして直規の濡れた頭と肩を拭く。
私が拭きやすいように体をかがめながら、直規がムキになる。

「そんなことしたら、さおりが通ってもわからないだろ。
電話もつながらないしさ」

そうだった。学校では機内モードにしてるんだ。
雨に濡れてまで私を、金髪のさおりじゃなくて私を待っていてくれた。
それが嬉しくて、ずっと言いたかった言葉を素直に言えた。