「人のせいにするのはおやめなさい」

私を真正面から見据える、真紀子さんの目。
久しぶりに見た、強い眼差し。
この射るような目に、私は人生を決められてきたのだ。

「イヤならイヤだと言えばいい話でしょう」

ぴしゃりと言い放つ声は冷たい。

「医師は、イヤイヤできる仕事じゃありませんよ。
やりたくないならおやめなさい。未来の患者さんのために」

ああ、そうだった。真紀子さんはこういう人だった。
いつだって自分の正義を一方的に言うだけ。
そして、目の前のこの人は私の祖母以上に薄情に見える。

「そうですね。そうします」

真紀子さんに負けないくらい冷たく答えると、
私はバッグをつかんで八月一日医院を飛び出した。

あっちの真紀子さんに「手帳」とはどんな手帳なのか、
どこにあるか、それだけ聞いてもよかったのに。
そう気づいたのは、家に着いた後だった。