6月最初の月曜日は毎年体育祭と決まっている。
美園たちと気まずいまま体育祭に出るのがおっくうで、
風邪気味だと嘘をついて早退した。

まっすぐ塾に行くのも何なので、
真紀子さんの好きなチョコレートを買いに、
恵比寿に向かった。

地元でも買えるのにわざわざ遠出したのは、
少しでも横浜から離れたかったから。
枝分かれした世界でこじらせた人間関係から、逃げたかった。

恵比寿駅を降り、JRの高架下を通り抜けようとした時だった。
上を通る電車の轟音に耳鳴りが混じり、次にめまいがやってきた。

今度はどこに飛ばされるんだろう。

そう思った次の瞬間、ドスンと鈍い音がして、
何かに思い切りぶつかった。

バランスを崩して派手に転んで、痛みと衝撃で一瞬息が止まる。

「大丈夫?」

とても柔らかい、女の人の声。

大丈夫ですって答えたいけど、痛くて声が出ない。

ふわりといい匂いがして顔を上げると、
女の人の顔がすぐ目の前にあった。

吸い込まれそうな大きな瞳と目が合った瞬間、その人が息を飲む音がした。

この人、私を知ってるんだ。「この世界の八月一日さおり」を。