そしてまた世界は枝分かれする

結局押し切られ、
公園の展望台で缶コーヒーを飲む羽目になった。
もちろん、フジミんのおごりで。
まあ、家についてこられるよりマシだけど。

「わあ、大観覧車が見える! すげー! 
さおりん、今度一緒に乗ろうよ」

展望台の柵から身を乗り出して遠くを指差す。
この人、本当に受験生?

「やだ」

「即答かよ! さおりんたら冷たぁい」

「一緒に乗ってくれる女の子なら、他にいくらでもいるでしょ」

「出た、軽蔑の眼差し! 俺、そう言うの大好き! もっとちょうだい!」

「ほんと、ばっかじゃないの」

帰ろうとすると、フジミんは「ごめんごめん」となだめにかかった。

「はー、ホントに俺ってダメなやつだよなあ」

大げさにため息をつき、天を仰ぐ。

「自分でもわかってるんだ。自分が弱い男だって。
おれさ、親父が高校野球の有名監督で、弟も有望選手なんだ。
でも、俺は野球をやめちゃったから……。
それ以来、親とうまくいってなくて。
愛情に飢えてるっていうか……」

緑がかった茶色い目を寂しそうに伏せる様子は妙にわざとらしい。
お父さんに認めて欲しいなら、頑張ればいいじゃない。

「ふうん。で?」

冷ややかに返すと、フジミんは一瞬きょとんとしてから、
「あーあ」と頭を書いた。

「このネタ、女子ウケいいんだけど、
さおりんには通用しないかー。
金髪のさおりんはわかるわかるって言ってくれたんだけどなあ」

また金髪か。私は大きくため息をついた。
なのに、フジミんは相変わらずヘラヘラ笑っている。

真面目に聞いて損した。
この時間、完全に無駄にした。

私は財布から小銭を取り出すと、
フジミんのブレザーのポケットに缶コーヒー代をねじ込んだ。

「受験生でしょ。パパに認めてもらいなら勉強すれば?」

フジミんの背中を押し、帰れと強引に送り出す。
振り向いて口を開きかけたフジミんを、
私はシッシッと手を振って追い立てた。