「信じてくれた? さっき話したパラレルワールドの話」

黙りこくったまま、健太くんは首を横に振った。

「だよね。でも、健太くんの定期、使えなかったでしょ?」

駅の自動改札で止められた健太くんの代わりに
「定期が切れたので切符を買ったけど、失くした」
と私が駅員さんに掛け合った時も、今と同じ顔をしていた。

でも、彼を呼んだのは、パラレルワールドを信じさせるためじゃない。

「健太くんに、お願いがあるの」

私は知りたかったのだ。
あの日、どうしてお母さんと私は関内にいたのか。

けれど、混乱して頭を抱えている健太くんの耳には入らなかったらしい。

「さおりさん、さっき言いましたよね。
母さんとさおりさんが二人とも生きてる世界があるって。
そこに僕はいるんですか?」

真剣な眼差しに、
「いないみたい」という言葉を飲み込んだ。

でも、無言が答えだと察したのだろう。
健太くんは顔色を変え、リビングを飛び出していった。

「健太くん!」

すぐに追いかけたのに。
玄関を開けた時にはもう、彼の姿はどこにもなかった。