「あれ……、皐月?」

急いで水中に身を浮かし、皐月の姿を探した。
だけど四方には真っ暗な湖が広がっているだけで、皐月はどこにもいなかった。

「皐月……っ!?」

その時、水中からぐっと何かに足を引っ張られる。

「……きゃっ!」

かろうじて悲鳴を上げることは出来たけど、次の瞬間には、私の身は水中に引き込まれていた。

白い泡が、上へ上へと昇っていく。

そこは、音の存在しない世界だった。
だけど不思議と淡い光に満ちていて、目の前で皐月が悪戯っぽい笑みを浮かべているのが、何となく見えた。

皐月が、私の体を自分の方に引き寄せた。そして強く抱きしめると、水をひと掻きして、私もろとも水面から顔を出す。

「ぷはっ!」

長い間水の中にいたから、私の息は切れ切れだったけど、皐月は余裕だった。そして肩で息をしている私を見て、面白そうに笑う。

「もう、びっくりさせないでよ!」

「前は、逆だったのにね」

「逆って、何が?」

「水中ではいつも僕の方が息が続かなくて、優芽は勝ち誇ったような顔してた」

「そうだった?」

「そうだったよ」

そう言った皐月の眼差しは、どこか大人びて見えた。

「ねえ、皐月」

「うん?」

「私ね、子供の頃、皐月と夜に一緒に泳ぐのがすごく好きだった」

「僕もだよ」

「それに、今も……皐月といるのがすごく好き」

期せずして、皐月に告白してしまったような状況になり、急に恥ずかしくなる。耐えかねて俯けば、皐月がそっと私の額に額を寄せて優しく言った。

「僕もだよ」

ああ、やっぱり私は皐月が好きだ。

できるなら、ずっとこのまま身を寄せ合って、皐月と一緒に永遠に湖に浮かんでいたい。