ユニフォームに着替えてお仕事開始!                  

 本日のお掃除スケジュールは、
 3時のおやつ休憩まで通常通り
 割り当てフロアーの廊下とトイレを掃除。

 休憩の後、コスモ企画で一二を争う
 大物プロデューサー・小山田さんの執務室で、
 彼がのべつまくなしに収集してきたやたら分厚い
 専門書や、書き上げた傍からただ無造作に
 積み重ねられいくつもの山になっている
 企画書の整理整頓アルバイト。

 小山田という人物はちょっとした変人で、
 無類のバレエヲタクで知られる。
 
 一旦何かの研究や論文の執筆にかかってしまうと
 周りの事など全く見えなくなって。
 
 自分の執務室がどんなに汚れていようが気にせず、
 放っておけばあっという間にゴミ屋敷さながらの
 惨憺たる有り様になってしまうので、
 人事部に勤務している奥方が定期的に執務室の清掃と
 整理整頓を業者に頼んでいるのだ。

 いつもこのバイトをする時
 パートナーを組む幼なじみの手嶌幸作が、
 かがめていた腰を伸ばし大きくひと息ついて
 言った。


「この分なら、何とか今日中に終わりそうだな」


 悠里も軽く背伸びをして、見違えるように
 小ざっぱりとした執務内を見渡し、


「後はこの状態が何日維持できるか? だね」

「賭けるか? 俺は3日と保たないに、2千円」

「2千円?? 大きく出たねぇ、幸ちゃん。
 私今回は1週間くらいイケると思うけど」

「チッ チッ チッ チ ―― ユーリ、お前ひとつ
 大切なコト忘れてんぞ?」

「大切な、コト?」


 幸作は指でビシっとカレンダーを示し、


「あと2日でローザンヌの本戦だ」

「あーーーーっっt!!」

「それ以外にも、春先から初夏にかけては国際的
 バレエコンクールが目白押しだからな、おそらく
 彼も明後日辺りからココに缶詰めになるんじゃ
 ねぇーか」

「同感」


 するとネックストラップで首からぶら下げている
 悠里のガラケーへメールの着信。

 悠里、そのメールを開けて見て、


「 Σ(゚Д゚;) あらまッ ―――― 
 フードエキスプレスの左門さんからだ。
 6時から入れませんか? だって」

「ここはもう俺1人で大丈夫だからそっちに行って
 やれよ」

「そ~お? いつも悪いねぇ」

「しかしユーリよぉ、お前今一体いくつ
 バイト掛け持ちしてんの?」

「ええっとぉ……祠堂の雑役でしょ、
 カフェのウェイトレスとぉ、マックの夜間清掃」

「げげっ ―― 金儲けもいいけど、
 度が過ぎてダウンしねぇようにな」

「うん、ありがと。じゃ、残りの掃除お願いね。
 お先ぃ~」

「お疲れぇー」