『ホラ、着いたぞ』の声で、降り立った所は
 浅草寺本堂近くの駐車場。
  
 そこから本堂下への参道沿いには
 ”全国さくら普及協会”
  (こんな団体があるなんて! 初めて知った)
   
 から、寄贈された約1500本もの、
 枝垂れ桜、江戸彼岸桜やお馴染みのソメイヨシノが
 一斉に咲き誇っている。

  
 個々の桜が季節外れに咲くのは時々
 見受けられている事らしいが。
 それぞれ、開花時期が微妙に違うこんなに多くの
 桜が一斉に咲く様はまさに圧観。
    
 私も昔はお花見でちょくちょく来てたが、
 最近はとんとご無沙汰で
 実物をこんな間近で見たのは久しぶりだった。
  
 欲を言えばライトアップされてる夜じゃないのが
 残念だったけど。
  
 すっきり晴れ渡った青空に ――、
  
 仁王門の朱色と、風に吹かれて舞い上がる
 桜の花びらがとても映えて凄くキレイ。      


 その時、吹き抜けた一陣の風が足元に溜まっている
 桜の花びらをぶわぁ~っと吹き上げ、
 その景観に私はうっとりとした視線を向けた。


「わぉ、すっごぉい……」

「……」


 キラキラして見えたり、触ってみたくなったり……
 所かまわず押し倒したくなったり ――っ、

 急に真顔になった椎名が自分をじっと凝視
 しているので、私はなんだか不安になる。


「……椎名、くん?」


 (まいった。すっげぇ、可愛い……)


 私の華奢な体はちょっと力をこめ引っ張っられた
 だけで、いとも容易く椎名の腕の中へすっぽり
 収まってしまった。


「椎名 ―― っ」


 その肩を抱いた手にゆっくり力をこめられ、
 体がほんの少し強張った。

 普段どんなに虚勢を張ってはいても、
 根は18才の純情な娘なのだ。
   

 (やべぇ ―― めっちゃキスしたい……)


 その時、たまたま女子高生のグループが
 やってきたので、2人はパッと離れた。


 が ――、
  
 
『ちょっと、今のアレ、見た?』

『見た見たっ。やっぱアレってリアル**よね~』

『すんごくイイ雰囲気だったじゃん』

『やぁん、なんだか変な想像しちゃうじゃなーいっ!』


 ヒソヒソ話す女子達の声は、
 私と椎名にもかろうじて届く。


 (―― 女子、怖っ……)


「……え、えっと、そろそろ、車へ戻るか」

「あ、う、うん、そうね……」  


 スゥーっとさり気なく、私の肩口へ回された
 彼の手は燃えるように熱かった。
  
 それを妙に意識してしまって、
 心臓がドキドキ高鳴る。
  
 参道をそぞろ歩きながら、 
  
 傍(はた)から見たら、
 私達2人はどんな間柄に見えるんだろう。
 
 ラブラブな恋人同士?
 兄と妹?
 不倫カップル?
 
 なぁんて 考えたりして……。